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笑気鎮静法(笑気麻酔)について
思いやりの治療・精神的な痛みの除去(笑気鎮静法・雰囲気鎮静法)!!
歯科治療は多くの方にとって、やはりストレスの多い治療でしょう。 その上、最近は抜歯、インプラント(人工歯根)など手術も増えてきました。 痛みは、生理的な(神経を伝わる)痛みと精神的な痛みに分けられます。
身体的な(生理的な)痛みは、局所麻酔で軽減できる事がほとんどですが、精神的な痛みの対処は、歯科医院によって大きく異なってきます。 歯科医師との信頼関係、歯科医院の雰囲気に大きく関係します。 過去に嫌な経験をされた方や不安感の大きい場合、痛みの除去がうまくできない事があります。そのようなときに良いのが、精神鎮静法です。
鎮静法には・・・
1.雰囲気鎮静法(環境)
治療の受ける環境が清潔で落ち着ける状態である事、さらに、治療に当たる歯科医師の技術、態度、言葉使い、スタッフの対応が感じ良いものであれば、精神状態は、自然と和らいだものとなるでしょう。 この事は非常に大事な事で、痛みに対して重要なファクターです。 アメニティーまで考えられた個室の診療室が望ましいと考えられ、隣で歯を抜いている状態では鎮静にならないのは明らかでしょう。 よねざわ矯正・歯科医院は、全室個室であり、隣は見る事もできない状態です。
2.薬剤鎮静法
薬剤を用いる鎮静法には、投与経路によっていろいろな方法があります。即ち、吸入、経口、筋肉、静脈、直腸内です。 中枢神経に直接作用させて、鎮静を得る方法であり、飲み薬、点滴による静脈内鎮静法が多いです。
3.吸入鎮静法
吸入鎮静法に用いる薬剤では、笑気(亜酸化窒素)と酸素の混合ガスが一般的に使われています。
長所
- 導入・覚醒がすみやか
- 軽度の鎮静作用
- 呼吸器、循環器、その他臓器に悪影響をおよぼさない
- 刺激が少なく、円滑に導入ができる
- 術後の悪心・嘔吐が少ない
- 筋弛緩作用が無いため、低リスク
- 代謝に対する害がほとんど無い
短所
- 体内の空洞にすみやかに拡散するため、イレウス、気胸、中耳炎など、使用禁忌
- 慢性的な吸入は、造血機能障害、多発神経障害の危険性がある
適応症
- 歯科診療に不安感、恐怖心、不快感がある場合
- 神経性ショックの既往のある場合
- 心疾患や高血圧などでストレスを与えたくない場合
- 嘔吐反射の強い場合
歯科医療は、充填や義歯の装着といった本質的なものだけでなく、より審美的に、より機能的にと求められてきました。 なかでも治療の苦痛を減らし、低リスクで不安の無い歯科治療の環境を、患者さんたちは選びはじめています。 このような時代に合った価値観のなかで、歯科医師は新しい感覚の歯科医院作り考え、付加価値の高い歯科医療を提供し、地域医療のなかで頼りにしてもらえるようにならなければならないようです。
笑気吸入鎮静法は患者さんを大切にする意味から、これからの歯科医療に欠かせないものです。
患者さんにやさしい歯科治療のために
1.「歯の治療は嫌い」と言われない時代へ
血液とタービンの水しぶきにまみれ、あるいは針の穴より小さい根管を求めて神経をすり減らし、そして良くなった患者さんの口元から出る言葉は皮肉にも「歯の治療は嫌い」。昨今の歯科臨床技術はめまぐるしく発展していますが、この状況は昔からほとんど変わらないままです。 確かに診療室の雰囲気は独特であり、子供や恐怖心の強い患者さんでなくても歯科治療に対しては「嫌だな」という思いがあることでしょう。 この歯科治療の恐怖や不安から患者さんを解放するものとして、長い医療の歴史のなかで成立したものが、笑気吸入鎮静法です。
笑気ガスは多くの方が持つ「嫌だな」という気持ちを和らげる事ができます。笑気吸入鎮静法を用いる事で、歯科治療に対して「好き」とはいかないまでも「嫌い」と言われなくなれば、多くの方々は自分の健康のために、素直に歯科医院へ通うようになるでしょう。それは、即ち「歯科疾患を減少させる」という私たち医療人の目標に、大きく貢献するものと思います。
2.ストレスから患者さんを守る
歯科医院を訪れる内科的慢性疾患を持った患者さんのほとんどは、通常の生活ではあまり症状を現しません。しかし、なんらかのストレスや負荷が加わったときに急性症状が出現し、病状の悪化をもたらします。
患者さんがこのような状況に至るのを未然に防ぐためには、歯科治療中における患者さんの精神と肉体の安静を守る事が第一です。精神鎮静法は患者さんをストレスから守り、精神を安静にさせる事によって、このような偶発症の発生を防止するのに非常に有効です。
また、慢性疾患を持つ患者さんはその疾患の治療を優先するために、やむを得ず歯科疾患を放置する傾向にあります。そうなると当然歯科疾患は重症化し、治療に際しては外科的侵襲を加えざるを得ないケースが多く見られます。この場合はまさに精神鎮静法の適応症例であり、意識して使用する事でリスクを抑えた歯科治療を提供する事につながります。この事が、歯科医師が行う全身管理と言えるでしょう。
精神鎮静法について
1.鎮静された患者さんの状態とは
精神鎮静薬は中枢神経の機能を抑制しますが、呼吸、循環、反射機能を抑制する事はなく、あくまで患者さんの意識は保たれた状態にあります。
思考に関しては、その統合が困難になり、その事が恐怖心を作れなくします。そこで患者さんは恐怖心や不快感といった精神的ストレスから解放され、穏やかな表情を呈し、リラックスした状態になります。目は半眼状態で、呼びかければ開眼し、開口や岐合などの指示に従う事ができます。 局所麻酔などの疼痛刺激に対しては、鎮静によって疼痛閾値が上昇しており、患者さんの感じる痛みは比較的軽度に抑えられます。
また、時間の経過をあまり気にしなくなり、治療時間が長くなっても治療を受け入れる事ができます。使用する薬剤によっては健忘作用を有するものがあり、これは治療における痛みや不快感、疲労感を治療後には忘れさせてしまいます。実際に患者さんが経験する状況としては、お酒を飲んだときのほろ酔い気分に似た多幸感があります。こうして患者さんの協力を得て、治療を円滑かつ低リスクで行う事ができます。
2.精神鎮静法は全身麻酔ではない
全身麻酔は、生理的な反射や代謝の変化、呼吸循環機能の低下など病態生理学的な点において、精神鎮静法とは異なった態度を示します。 特に全身麻酔では意識を消失させるために、患者さんの体調に異変が起こった場合、患者さんはそれを不快症状として訴える事ができません。したがって、血圧計や心電図など各種モニターからそれを推測し、対処しなければならず、そこで十分な知識と技術、経験、設備が必要となります。 一方、精神鎮静法は患者さんの意識を消失させません。
つまりもし患者さんの体調に異変が起こった場合、患者さんは不快症状として訴える事が可能であり、それによって術者は状況を把握し、患者さんは指示に従う事ができます。また、呼吸器系や循環器系は特に抑制されず安定しています。そして、使用する薬剤は少量であり、肝臓や腎臓に対する影響はほとんど問題ありません。これらの事は精神鎮静法が全身麻酔に比べてはるかにリスクの低い方法である事を示しています。
笑気吸入鎮静法とは
1.笑気吸入鎮静法の作用
笑気吸入鎮静法は、笑気吸入装置で30%以下の低濃度笑気と70%以上の酸素を混合し、専用の鼻マスクを用いて患者さんに鼻から吸入させます。笑気の臭いはほのかに甘い香りで、違和感なく気持ち良く吸入できます。吸入された笑気は、肺から血中に急速に溶け込み、5分以内に鎮静状態に到達します。
逆に、血中からの排泄も非常に速く、笑気の吸入濃度を変える事によって鎮静度を迅速にコントロールする事が可能です。そして、笑気の吸入を停止すれば、いつでもすみやかに鎮静状態から元の状態に戻ります。治療終了後は、患者さんを長時間観察する必要もなく、数分で帰宅させる事ができます。
2.笑気吸入鎮静法に対する実感
10~20%の笑気吸入で体が暖かくなり、手足の先がぴりぴりした感じがしてきます。20~30%では口の周りのしびれや、体が軽くなってきます。また、遠くの方で音がするような感じがしたりします。このころになると、ぼんやりした非常に心地よい楽しい気分になり、体が重く感じたり、逆に軽く感じたりして、痛み感覚も相当鈍くなってきます。
しかし、さらに濃度を上げると、発汗が見られ、健忘を伴い、眠気がしてきます。そして、精神的には興奮したり、落ち着きがなくなったりする事もあります。
3.どんな患者さんに適応か
歯科治療に不安や不快を感じない患者さんはいないでしょう。治療の内容がごく簡単なものでも、やはり不安感を持つものです。 その意味からすると、どんな患者さんにも、どんな処置内容であっても適応と思われます。なかでも、特に笑気吸入鎮静法が必要な症例は、次のようなときです。
- 歯科治療に不安感、恐怖心、不快感を持っている患者さん
- いわゆる神経質な患者さん
- 小児を歯科治療の非協力児にさせないために
- ストレスに対する予備力の低い高齢者
- 既往歴に歯科治療中の神経性ショック、脳貧血様発作、疼痛性ショックを有する患者さん
- 心疾患、高血圧など内科的慢性疾患を持ち、歯科治療のストレスを軽減すべき患者さん
- 嘔吐反射の強い患者さん
鼻閉などにより鼻呼吸のできない患者さんには物理的に無理ですが、本来歯科治寮における禁忌症でなく、通院できる体力を有する患者さんであれば少ないリスクで使用できます。
精神鎮静法について
吸入開始から終わりまで
- 患者さんにとってとにかく楽な姿勢(水平位より30°ほど起こした状態)にします。このときから鎮静の障害になるような照明、雑音、私語に気を付けます。
- 鼻マスクを装着し、ガスが漏れないように適合させます。必要以上に強く締め付ける事はありません。初めての吸入では、鼻マスクを自分で装着させ、そのまましばらくたせておきます。
- まず、15~20%の笑気を吸入させます。流量を調節して笑気吸入装置のバッグが患者さんの呼吸に応じて適度に膨らみ、鼻呼吸が楽にできているかを確認します。
- 患者さんの状態をよく観察しながら笑気の濃度を5%ずつ上昇させます。同時に患者さんが自然にリラックスできるように話しかけ、言葉による暗示で誘導します。
- 患者さんの表情が穏やかになり、術者の問いかけに対し、反応が鈍になると、至適鎮静度です。治療を開始します。治療を始めて、患者さんが少し緊張するようなら、入笑気濃度を5%ほど上げます。
- 治療中は通常30%以下の笑気濃度で行います。作用が少ないからといって、不用意に笑気濃度を上げないように気をつけます。
治療の後は
- 治療が終了する少し前に笑気の吸入を停止し、鼻マスクを除くか、そのまま空気を吸入させます。このとき「気持ち良くさめますよ」と暗示を与えます。
- 治療終了後は、歩行にふらつきが無い事を確かめ、待合室へ移動させます。その後は、次回の予約や治療費精算のときに、気分が戻った事をたずね、そのまま帰宅させます。特に介助者は必要ありません。